エピジェネティクス 操られる遺伝子 page 8/10
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変化を探し始めた。その取り組みは始まって間もないが、すでに成果が出つつある。 オランダ飢饉コーホートに関する最新の研究の一つでは、血液細胞の中にエピジェネティックに変化した遺伝子――飢饉を経験していな....
変化を探し始めた。その取り組みは始まって間もないが、すでに成果が出つつある。 オランダ飢饉コーホートに関する最新の研究の一つでは、血液細胞の中にエピジェネティックに変化した遺伝子――飢饉を経験していない人の遺伝子とはメチル化の度合いが異なっている遺伝子――がいくつか見つかった(注9)。特筆すべきは、インスリン様成長因子2(IGF2)というホルモンを生産するための遺伝子「IGF2遺伝子」のエピジェネティックな変化である。インスリン様成長因子2は、インスリンによく似ており、さまざまな細胞の分裂時に成長を促すことから、そう呼ばれている(「2」がつくのは、三つのIGFのうち二番目に発見されたことを示す)。IGF2は本質的には成長ホルモンであり、特に胎児の成長にとって重要な働きをする。 もっとも、IGF2遺伝子のエピジェネティックな変化が、出生時の低体重、糖尿病、統合失調症などと、どうつながっているのかはまだ解明されていない。それを知るにはまず、他の種類の細胞にも、同じように変化したIGF2遺伝子があるかどうかを確かめる必要があるだろう。その後、IGF2遺伝子の変化と健康状態との因果関係を立証しなくてはならない。そうした難問が控えてはいるものの、特定の遺伝子の変化が見つかったことは、胎内環境のエピジェネティックな影響が六〇年以上も続いてきたことを論証する上で、極めて重要である。 エピジェネティックな付着の大部分は、精子細胞と卵細胞が作られる段階で除去される。ゆえに受精卵は、エピジェネティックには白紙の状態から成長し始める。しかし時たま、エピジェネティックな付着が、遺伝子とともに次世代に受け継がれる場合がある。それに関して注目すべき事象は、飢饉によるマイナスの影響が、飢餓を経験した人とその子供だけでなく、孫世代にも及ぶということだ。16