ブックタイトル週刊ダイヤモンド16年7月30日号

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週刊ダイヤモンド16年7月30日号

特集日本の警察││『64ロクヨン』は映画化され、大ヒットとなっています。もともと、書いてみたいテーマだったのでしょうか。 実は、デビューして短編集を2冊出した後に、長編に挑戦してみようということで書き始めました。しかし、作家になって初めて筆が止まってしまったのです。それまでそんなことはなかったのですが、途中でまったく書けなくなってしまいました。 映画「ロクヨン」は、佐藤浩市さん演じる元捜査一課の刑事で、今はD県警の広報官を務める三上義信の内面描写でストーリーが進むのですが、三上の思いが頭の中に出てこなくなっちゃったんです。 だから、しばらくほったらかしにして、短編を量産していたんですが、途中で体を壊して自分がつぶれちゃって、そのまんま主人公もつぶれちゃったという感じでしたね。││主演の佐藤浩市さんも別のインタビューで、「『ロクヨン』では身を削る演技をした」と言われていました。原作者である横山さんも同じように身を削られていたのですね。 もう本当に、削り過ぎました(笑)。書くことに関してはとにかく、うまく書けるかどうかは別としても、書き続けるということには自信があったんで、筆が止まってしまったのはショックでした。 もともと、長編に対する苦手意識がありまして。性格的にそこまで気が持たないんですかね。短編の方が書きやすいですね(笑)。││それだけ苦労した作品が映画化されていかがでしたか。 私はもともと、新聞記者を辞めた後に少年漫画の原作をやっていたこともあって、原作がそのまま忠実に映像化されるというような幻想は持ってないんですね。 ただ、活字作品の読者に対する責任もありますから、映像化されるというとシナリオはきちんと読むんですよ。そこで思ったことについては全部伝えるんですが、出来上がったものを見てやっぱり驚きました。 小説は、主人公の視点だけで話が進んでいくのですが、映画ではその主人公が最初から最後まで画面に映り込んで、ある意味客観描写をされます。だから、どのように描かれるのか、非常に興味がありました。 実際見てみると、三上の周辺でさまざまな出来事が起き、群像劇となって立ち上がっていくのですが、その立ち上がり方が凄まじかった。もうこれは3D映画なんか要らないなっていうぐらい。役者さんたちの思いであるとか、ぶつかり合いみたいなものが、心の3Dとなって見る者の側に飛び出して迫ってくるっていう感じでした。 自分で原作を書いたのも忘れ、すっかり見入ってしまったっていうのが正直なところです。やっぱり本物の監督や役者の方たちが、本気で作ったものというのは、本当にすごいものができるんだなと感服しましたね。テーマは組織と個人の相克││『ロクヨン』では、主人公の三上が、警察組織の論理やしがらみに翻弄されてもがき苦しむ様子が描かれています。「組織」と「個人」の相克、せめぎ合いのようなものが、私の小説のライフワーク的なテーマになっています。組織のしきたりやしがらみの中で、いつの間にか染まっていく自分がいて、それを認識しながらも、それでも組織の中で生きていかなければならないという心の葛藤を書きたい、そう思ったんです。││横山さん自身も、新聞記者時代に、葛藤があったのでしょうか。 私自身、新聞記者を辞め組織から離れてみて、初めて組織というものの本質、個人に対する有形無形の影響みたいなものが見えてきました。 記者を12年間やった感想を一言で言えというならば、あの仕事はよほどの「悪党」か、よほどの「善人」でなければ極められないと思いましたね。例えば、自分には犯罪者を紙面で断罪する資格があると信じることができるか、あるいは資格がないと分かっていながら、善人面して記事を書き続けていくか……。 そのどちらでもない私はやっぱり苦しみましたし、おそらく大半の記者の方々が、そこで苦しんでいるのではないでしょうか。 それから、今にして思うと私はジャーナリズムをやるには正義感が足りなかった。なのでさらに葛藤したという面もありますね。││そうした理由から新聞記者を辞められたんですか。 最も大きい理由は、新聞でいうところの「書く」という作業と、自分がイメージする「書く」とい39 週刊ダイヤモンド 2016/07/30インタビュー 横