ブックタイトル週刊ダイヤモンド17年6月17日号

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週刊ダイヤモンド17年6月17日号

特集クスリ・健康食品のウソ・ホントは「医者を悪者に仕立て過ぎて、患者との信頼関係にひびが入ること」。自身のクリニックでも、記事の影響か通院をやめてしまった患者がいる。必要なスタチンをやめたがる患者に飲み続けるよう説得するのには苦労した。一方で、記事が適切に薬を減らすきっかけになった患者は十数人に及ぶ。 患者には、記事を機に適切な治療から遠ざかった者と、より適切な治療につなげた者がいるということだ。「良い」「悪い」を断定する記事は分かりやすいが、「真実は極論と極論の間の『中庸』にある」と長尾院長は強調する。最適な中庸を見いだすには、健康や医療に関する情報を調べて理解し、その情報を使う能力「ヘルスリテラシー」を患者が身に付ける必要がある。クスリは5種類まで副作用で転倒したり認知症まがいの症状 薬の本当のやめどきはいつなのか。老年医学の第一人者である東京大学大学院の秋下雅弘教授は「年を取ったら若いころと同じつもりで薬をもらう姿勢は改めた方がいい」と促す。 若者や壮年と同じ量の薬を出さ年を取ったら副作用が強くなるケースも疾患別の薬との付き合い方6/17号 P29 イラストレーターCS5 オーバープリント済み 岩崎*『薬は5種類まで』(秋下雅弘著、PHP研究所)と秋下教授への取材を基に本誌編集部作成血圧の薬高齢者はループ利尿薬などを控える  一般に高血圧と診断される基準は、年齢にかかわらず上の血圧(収縮時血圧)が140、下の血圧(拡張時血圧)が90。ただ、加齢とともに生理的に血圧は上がっていき、高齢者は血圧がすごく低い人の方がその後の寿命が短い傾向もある。そのため年齢によって血圧の管理基準はやや異なる。 75歳以上の高齢者の管理基準は、上150未満、下90未満と少し緩く、この範囲なら、降圧剤を4種類も5種類も飲んで無理に下げるのはやめた方がいい。ループ利尿薬、α遮断薬、β遮断薬は副作用を起こしやすいので、高齢になったらできれば使用を控えたい。コレステロールの薬スタチンで騒がれる副作用はごくまれ  コレステロールを下げる薬を使うことによって心筋梗塞がどれくらい減るかというと、3割程度。心筋梗塞や脳梗塞を薬で絶対に防げるわけではなく、飲まなかったから必ず発症するわけでもない。75歳以上の高齢者は、余命を考えれば、若い人ほど目標値を厳格に管理しなくてもよいだろう。 スタチン系の薬はよく効くが、副作用で「横紋筋融解症」が出ることがある。筋肉が破壊され、筋肉痛や体のだるさがあらわれるもの。有名な副作用であるため、筋肉痛やだるさがあると、すぐに薬をやめる人がいるが、この副作用が出るのは0.何%という低い確率。高齢者になると、筋肉痛は日常茶飯事。心配であれば、検査で横紋筋融解症かどうかは分かる。糖尿病の薬高齢者に敬遠される薬と慎重投与する薬  糖尿病の薬には①血糖の吸収を抑える薬、②インスリンの分泌を促す薬、③インスリンの作用を強化する薬の3系統がある。②のスルホニル尿素薬(SU薬)は長く使うと、ひどい低血糖を起こす。今は②でGLP-1というホルモンを介して作用する薬があり、こちらは低血糖になることはまずない。 ①の薬は高齢者に敬遠されがち。食前服用なので飲み忘れが多いし、ガスが発生しておなかが膨らむという副作用は、便秘がちの高齢者には苦しいからだ。 ③の薬である「ピオグリタゾン」(商品名・アクトス)は、体内に水分を貯留してむくんだり、体重が増える副作用があるので敬遠されがち。まだ決着はついていないが、ぼうこうがんを起こしやすいという指摘もある。③であらためて見直されているのは、「メトホルミン」(同・メトグルコ、グリコラン)という古い薬。肝障害などの副作用があるため使われなくなっていたが、うまく使えばむくみや体重増加もなく、効果が高い。ただ、肝障害の副作用は心配なので、高齢者には慎重な投与が必要だ。睡眠薬効果の長い薬が転倒の原因になる  不眠を訴えて睡眠薬を飲む高齢者は多く、彼らは昼間の転倒が多くなる。例えば「レンドルミン」(一般名・プラチゾラム)の半減期(体内に残る薬の成分が半分に減る時期)は7時間。朝になっても体内にまだ薬が残ってぼおっとし、ふらついて転倒してしまうのだ。 高齢者が飲むなら、分量を半分にしてみるか、「マイスリー」(同・ゾルピデム)、「アモバン」(同・ゾピクロン)、「ルネスタ」(同・エスゾピクロン)など半減期が短い薬の方がいいが、転倒の危険はあるので常用は避けたい。半減期が短くても「ハルシオン」(同・トリアゾラム)などは夜間せん妄が出やすいので控えたい。抗不安薬の中にも半減期が長いものがあり、睡眠薬には適さない。依存性も問題で、「エチゾラム」(商品名・デパス)は薬が切れてくると落ち込み、また飲みたくなってしまう。「ロゼレム」(一般名・ラメルテオン)や「ベルソムラ」(同・スボレキサント)など新しいタイプの睡眠薬もある。胃薬H2ブロッカー常用は中枢神経をやられる  H2ブロッカーは効き目が強く、市販薬もあって入手しやすい。ただ、高齢者がずっと飲み続けると、中枢神経をやられて、意識がもうろうとする、せん妄状態や記憶力低下を引き起こすリスクがある。 症状が落ち着いてきたら、胃粘膜保護薬に切り替えた方がいい。胃粘膜保護薬は1日3回が基本だが、高齢者の場合は朝と晩、飲むだけで構わない。 こちらも漫然と常用してはいけない。 最近よく使われるPPI(プロトンポンプ・インヒビター)という薬も漫然と飲むものではない。胃酸を出す器官にだけ働き掛けて、胃酸の分泌をぱったり抑えてしまう薬なので、消化機能が衰えてしまうリスクがある。特にカルシウムの吸収が落ちて、骨が弱くなる可能性が指摘されている。また、胃酸が出ないので、胃の殺菌作用がなくなって、菌が殺されないために肺炎や腸炎のリスクが上がるのではないかともいわれている。抗うつ薬三環系で認知症状の副作用も  便秘や口が渇くといった副作用のほかに、認知機能が悪くなる──。昔から使われている三環系の薬は、抗コリン作用という高齢者にとって一番好ましくない副作用が出るので、高齢者には使わないのが普通だ。 副作用は高齢者になって、初めて顕在化してくることが多い。若いころから飲んでいて、60歳を過ぎたころから物忘れの症状が気になりだしたら、抗コリン作用を疑った方がいい。 なお、SSRIやSNRIという薬は認知機能に及ぼす副作用はないが、吐き気や下痢など消化管に特徴的な副作用がある。慣れてはくるが、合う、合わないはある。29 週刊ダイヤモンド 2017/06/17