ブックタイトル週刊ダイヤモンド19年10月26日号

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週刊ダイヤモンド19年10月26日号

27 週刊ダイヤモンド 2019/10/26特集 サイエンス&ベンチャー105発味のある予測なんだけれど、世の中というのは実は、思いもしない方向に進んでいるんです。これが実態。 例えばIT革命がそうでした。IT革命による未来を語ると、周りの人は「そんなことあり得ない、絶対不可能」と否定したわけです。でも結果として、あっという間にIT革命が実現したでしょう。──積み重ねで「こういう未来が来ます」と語るのが社会学者や経済学者。でもその手法では絶対たどり着けないところに未来がある。ということは、リチウムイオン電池も周りから否定されましたか。 どんな研究でも当然否定されます。それを一生懸命裏付けして、「こうなるんですよ」と説明する。だけどね、説明して「ああ、分かりました」と言われたら、それはもうあかん。──そんな簡単なことは、みんな思い付いていると。 そういうこと。もう遅いんです。ひねくれ者みたいですが、「絶対に不可能だ、そんなことはあり得ない」と言われることこそ、本当は大半が正しいんです。本物はその中に紛れ込んでいる。──IT革命レベルの変革を予感させる今のバズワードは? CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)。無人自動運転一つ取っても、「5G」のような速度の速い通信規格の下で、人工知能(AI)を搭載した自動車が、GPSなどのいろんな情報を常に受け取りながら勝手に動くようになるわけです。──自動車産業に依存している日本はどうなりますか。 本当に心配。世界がガラッと変わるときというのは、(日本の自動車メーカーのように)すでに成功している事業者は〝被害者〟になるよね。現行の事業では稼げなくなるんだから。ル賞を取れますよね(笑)。 言ってみれば嗅覚というか、セレンディピティみたいなものです。情報はみんなに同じように伝わっている。だけどそれをちゃんと受け取れるかどうかは別の話です。だからこそ、研究開発で一番重要なのは、未来予測です。社会学者や経済学者の未来予測とはちょっと意味合いは違うけれども。──どう違うのでしょうか。 通常の社会学者は、統計データなどのいろんなエビデンスデータでもって、「なるほどな」と皆さんが納得するような未来のシナリオを語るわけです。それはそれで意チウムイオン電池が商用化されたのは1990年代初頭のことだ。携帯電話やパソコンへの搭載から始まった。商用化から約30年たった現在、自動車を走らせる動力源にまでなっている。 この影響力の大きさから、旭化成の吉野彰名誉フェローはほかの2人の研究者と共に、2019年のノーベル化学賞に選ばれた。だがこの技術がここまで社会を支えるようになるとは、当時どれだけの人が予測できただろうか。 人間という生き物は、世代を重ねても案外変わらないものだ。聖書や枕草子を21世紀にひもといても、共感したり、戒められたりする記述は驚くほど多い。だが科学技術の進歩ぶりはどうだろう。イエス・キリストや清少納言は、スマートフォンどころか飛行機の出現を予測することすら不可能だったに違いない。 そして現代の私たちは、未来の産業や社会をどこまで正確に予測できるのか。答えは「ほぼ不可能」だ。なぜなら多くの人は、今見ているものを根拠として積み上げ、未来を考える「フォーキャスト族」だからだ。 だが科学技術の未来を変えてきたのは、「バックキャスト族」だ。彼らは自分にだけハッキリと見える遠い未来から逆算し、現在において何をすべきかを決めている。科学者、技術者、実業家。どれだけ周囲に「そんなことは不可能だ」と冷笑されても、「この研究は必ず成功する」「この技術を実現する手段がどこかにある」と信じられる人々である。 プラントで培養した人工の食用肉、宇宙開発をするロボット、ゲノム編集食品、自己修復する素材……。本特集で紹介する105の事例は、これからの社会を変え得るサイエンス研究と、サイエンス型のベンチャービジネスだ。 どの事例にも、サイエンスフィクション(SF)小説の一ページを読んでいるような驚きがあるが、いずれも虚構ではない。バックキャスト族たちが、長年にわたって研究開発を重ね、サイエンスファクトを積み上げてきた成果である。 また多くの事例が、これから5年程度で現実社会に何らかのインパクトを与える可能性を秘めている。事例の中には近い将来の「もうけの種」が相当程度隠れているのだ。だから読者にはぜひ、未来の投資対象を物色するつもりでページを繰ってもらいたい。同時に、ここに至るまでの長年の研究開発の時間にも思いを致してもらいたい。 日本は世界で指折りのノーベル賞受賞者輩出国だが、学術研究の環境が近年非常に厳しいことは知られている。だが数々の事例を見れば一目瞭然であるように、日本の未来を左右するのはサイエンスとそれを支える人々にほかならないのだ。リ