ブックタイトルシックス 2017 WINTER

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概要

シックス 2017 WINTER

025生まれない」(Without the random,there is no new thing)というのはグレゴリー・ベイトソンの言葉ですけれど、それがすべてのシステムが生き延びるための基本条件なのです。 でも、グローバル化は「ランダム」を排除して、すべてを規格化・標準化して管理するシステムです。異物は排除され、システムが採用している度量衡ではその価値が考量できないものは「無価値なもの」とされて廃棄される。でも、それが全体化したときにやってくるのはシステムの死です。 今の日本経済も株式市場は「空前の活況」だと浮かれていますけれど、実体経済は縮小し続けています。「金で金を買う」マネーゲームは賑わっているけれど、それは生身の人間が実感できる豊かさとは何の関係もない次元での出来事です。 これから先、資本主義経済はどうなるのか。次のフェーズはまだはっきりとは見えていませんけれど、いずれにせよ、「経済活動とは本質的に何のことなのか?」という根源的な問いを回避することはできません。交換の目的は交換の継続です。同語反復のようですけれど、交換を継続するためには、「ホモ・エコノミクス」としも、それを自分宛の贈り物ではないかと思ってしまういささか多幸症的な心的傾向」です。最初に沈黙交易を始めた人が「お、こんなところに私宛ての贈り物が置いてある」と思った「贈り物」は動物が運んで来たものかも知れないし、風で飛ばされて来たものかも知れないし、誰かがゴミとして捨てたものかも知れません。でも、それを「贈り物」だと勘違いして、「お返しをせねば」と思った人が起点となって、それから長い期間にわたり、広範囲に及ぶ交易が始まった。交易をキックオフするのは「無主物をうっかり自分宛ての贈り物だと勘違いして、反対給付義務を感じてしまう人」です。こういう人をこそ「ホモ・エコノミクス」と呼ぶべきだろうと私は思います 今、資本主義が末期を迎えていますけれど、その理由は現代のビジネスマンたちが経済活動の本質を理解できなくなり、「ホモ・エコノミクス」ではなくなっていることにあると私は思います。 実体経済というのは基本的には人間の生理的欲求を充足するための活動です。衣食住に関わる基本的な欲求があります。それがないと生きてゆけない。だから、それを作り出し、交換する。でも、そういう生身の人間の生理的欲求を基礎にした経済活動には「身体という限界」があります。どれほどがんばっても1日3食以上美食を続けていれば身体を壊します。服だって一時に一着しか着られない。1時間ごとに着替えてもいいけれど、他のことができなくなる。家だって、一晩に眠れるのは一軒だけです。1時間おきに別の家に移動していてもいいけれど、寝不足で死んでしまう。だから、実体経済で回していると、経済活動の規模はある程度以上は拡大しない。 でも、資本主義経済は無限の右肩上がりを求めます。そうなると、もう人間とは関係のない経済活動を営む他に手立てがない。衣食住にかかわる欲しいものがすべて手に入ると、もう買うものがなくなる。仕方がないので、株を買う、債権を買う、金を買う、石油を買う、ウランを買う……こういうのはすべて貨幣のようなものですから、これは「貨幣で貨幣を買う」ことに等しい。それなら「身体という限界」を突破できる。金融経済というのはそういうものです。もう人間的価値とは何の関係もありません。現に、現代の株の取引は今はコンピューターのアルゴリズムが行なっています。千分の一秒単位で売り買いするというようなことはもう人間にはできません。 経済活動というのは本来「最も固有で、最もオリジナルなもの」が優先的に交換の場に置かれるというものなのですけれど、経済のグローバル化によって、その基本ルールも否定されてしまった。グローバル化というのは、世界中で行き交う財貨サービス情報の価値が共通の度量衡によって計測可能になったということです。すべてのものの価値が数値的に可視化されていて、もうやりとりされているものに何の「謎」もなくなった状態、それがグローバル化の到達点です。交換への情熱が冷めてしまうのも当然です。 繰り返し申し上げている通り、交換は、価値のわかっているものが交換されるようになった時に停止してしまう。交換というのは理解不能の異物を定期的に取り入れるための仕組みなのです。集団の中に「ランダムなもの」を取り入れることで、集団を活性化するためのしくみなのです。「ランダムさのないところには、新しいものはINTERVIEW W Gift ITH TATSURU UCHIDA眼に映るすべてのことはメッセージ