ブックタイトルシックス 2018 SPRING

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概要

シックス 2018 SPRING

022ツがフォーマルとして認められていました。これらはいずれも、腰に切り替えが入っており、体のラインに沿っていたから堅苦しかったのです。苦しいので、ラウンジでくつろぐときぐらいはゆったりした上着を着よう、ということでラウンジスーツが生まれました。くつろぎ着、より自由な服装だったのです。 以来、スーツは、サヴィルロウとともに発展してきました。ですから、サヴィルロウの規範、原理主義が軸としてつねにある。それがスーツの特徴です。 でも、制約があるからこそ自由を意識する、とも言えます。不自由だから、戦おうという気持ちが出てくる。制約に立ち向かい、自由を勝ちとろうとしたひとたちがメンズ・スーツの歴史に革命家として残っているのです。60年代のピエール・カルダンのパゴダスリーブとか、80年代のアルマーニのソフトスーツとか、2000年のエディ・スリマンのちっちゃいスーツなんかも入ってくる。ときおり革命家が出てきては、スーツの許容範囲を広げている、という流れが見えます。スーツというのは、勝ちとった自由でできているのです。自由を楽しんで着てほしいと思います。「自由」は、英語のlibertyとfreedomの2語を、明治維新の頃に「自由」と訳したわけですけれど、この2語、実はニュアンスが若干異なります。「スーツの自由」というお題をいただいて、すぐに浮かんだのは、こちらの「自由」にはliberty(リバティ)がお似合い、ということです。 libertyというのは、圧政とか拘束があって、そこから勝ちとられた解放や自由を指します。アメリカ合衆国の独立100周年を記念してフランスから送られた自由の女神は〝Statue of Liberty?、フランス革命を描いたドラクロワの絵画は〝La Liberte guidant le peuple(民衆を導く自由の女神)?と呼ばれます。 では、ビジネスマンにとって制服だとされるスーツに自由なんてあるのでしょうか? スーツの歴史を紐解くと、テイラードの上下とベスト、シャツとネクタイというアイテムの組み合わせは、1666年に生まれました。当時、ズボンは半ズボンだし、シャツもフリフリで、男性はハイヒールをはき、かつらをかぶっていました。半ズボンは18世紀末のフランス革命で長ズボンになります。フランス革命の推進力となった労働者たちは「サン・キュロット Sans-culotte」と呼ばれました。貴族的な半ズボン、キュロットをはかない、ウイズアウト・キュロットという意味です。革命で貴族たちは次々とギロチンの露と消え、支配層の男性も本来は労働着だった長ズボンをはくようになります。 軍服の技術を最初に導入し、スーツの規範をいまも守り続けているのがサヴィルロウです。詰襟の軍服を平時に現在のジャケットのように開いたのは19世紀のことです。その名残りが上着の襟のボタンホールで、これは第一ボタン用のホールだったといわれています。信憑性がどれほどあるのかわからないのですが、少なくともそういう神話を男の人は好む、ということはいえます。スーツはつまり、軍服からの自由、戦争からの自由でもあったわけです。 現在のスーツは、1850年ぐらいに出てきたラウンジスーツが直接の原型になっています。この当時、フロックコート、準礼装としてモーニングコート、夜間着用するテールコートの3種類のスー服飾史家の中野香織さんにスーツについてお聞きしました。中野さんはケンブリッジ大学でダンディを研究したひと。スーツが約350年も永きにわたり、男性服の中心に君臨しつづける理由のひとつに「自由」があるのでは、と。スーツの考察と最新のスーツを紹介します。スーツは自由にするインタビューまとめ=今尾直樹 写真=熊澤 透スタイリング=櫻井賢之、水元章裕 グルーミング=宇津木 剛(PARKS) 構成=持田慎司自由を勝ちとる服革命家のスーツ