ブックタイトルシックス 2018 SPRING

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概要

シックス 2018 SPRING

076 今回はまず、創業160周年を迎えたブシュロンにフォーカスしてみたい。1858年から続く老舗であるだけに、このメゾンの来し方はさまざまな歴史的エピソードにいろどられ、興味深いのだ。 創業者はフレデリック・ブシュロン。彼は時代の先を読むのに非常に長けていた人物で、パレ・ロワイヤルにあった本店ブティックを1893年にヴァンドーム広場へと移した。入居した建物には、皇帝ナポレオン三世の美貌の寵姫、カスティリオーネ伯爵夫人も暮らしていた。追随して五つ星ホテルのリッツやガラス工芸家ルネ・ラリックの店がオープンし、ヴァンドーム広場はジュエラーが居並ぶ別格の場所へと変貌していった。パレ・ロワイヤルがその後高級感を失っていったことを考えると、この件でフレデリックは冴え渡る先見の明を示したことになる。 フレデリックは第二帝政期の宮廷をいろどるトレンドセッターだったが、やがてアール・ヌーヴォーの芸術運動にも大いに興味を示した。当時の王侯貴族向けのジュエリーは、自然をありのままに写した写実的なデザインや、ロココの雰囲気を引きずった古典主義が多くを占めていたが、彼はアール・ヌーヴォーの自由奔放で動きのある表現に魅入られたようだ。ブシュロンは左右非対称のクェスチョンマーク形ネックレスを生み出し、旧来のアカデミックなスタイルとは一線を画す新しさで多くの顧客を獲得していった。やがて名声は海を越え、インドのマハラジャやイラン皇からの桁外れのオーダーも受けることになった。 現在、このメゾンはブシュロン家の手を離れ、ケリングのラグジュアリー部門をになう一員となっている。だが比興の歴史はラグジュアリーブランドにとっては宝物のようなもの。アーカイブに残されたさまざまな名品からインスピレーションを得て、今も詩情豊かなジュエリーが生み出されている。カリスマティックな創業者に導かれたメゾン教養としてのジュエリー学ジュエリーを単なる女の奢侈と思うなかれ。美しい宝石で身体を飾るという文化は、ときに天才を輩出し、ときに歴史を動かしてきた。その概要を身につけることは、知的エリートにとって自らを高めるための教養でもある。写真=奥山栄一 編集・文=本間恵子J EWE L L E RY14 321 フレデリック・ブシュロン(1830-1902)。32 ヴァンドーム広場に初めてブティックを構えたジュエラーはブシュロンだった。王侯貴族が訪れたブティックは大幅に改装され、今秋グランドオープンする。3 葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』に影響された日本趣味のティアラ。1910年頃の作。4 孔雀の羽根をモチーフにしたクェスチョンマーク形のネックレス。1883年の作2創業160周年のアニバーサリーを迎えたヴァンドーム広場きっての老舗Photos: courtesy of BoucheronBOUCHERON