ダイヤモンド社はビジネス書を中心に、近年は実用書、児童書、小説など
幅広いジャンルにわたって、数々のベストセラーを世に出している。
それは編集と営業の強力タッグによる賜物でもある。
第一線で活躍する社員たちが、
書籍づくりの実際とそれを取り巻く環境について話し合った。
── 三浦さん、中村さんはいくつかの出版社の編集者を経てダイヤモンド社に転職されました。
それぞれほかの出版社と違うと思われた点はどういう点でしょうか。
三浦一番大きな違いは、編集者に課される発行点数のノルマがないということです(売上の目標はあります)。多くの出版社では年間発行点数が決められていますが、それだと、詰め切れないまま本を出さざるを得ないことがあります。ダイヤモンド社では、一冊の本に自分が納得ゆくまで時間をかけて丁寧に編集することができます。
松井本当に必要な本を高いクオリティで出すことに傾注しているため、年間新刊点数はここ数年で、むしろ減少しているくらいです。
中村上司からお仕着せの企画をあてがわれることもないですしね。
三浦しかも、発刊後も、セミナーや各種トークイベントに編集者が著者と一緒に参加するなど、売り伸ばし、ベストセラーに育てる販促活動に積極的に関わることにとても理解があります。早く次を出せと急かされることがないんです。
中村宣伝プロモーション部の存在も心強いです。テレビ、新聞、ラジオ、webメディアなど、どの媒体にどう売り込むかを常に考えていてくれて、本当にありがたいです。

編集長
三浦宣伝の行う施策とは別に、自分の本をダイヤモンド・オンライン内にある「書籍オンライン」で記事を作って出すことができるのも大きな利点です。ダイヤモンド・オンラインはビジネスパーソンに影響力のあるメディアですから、自分のTwitterアカウントでつぶやくのとは、反響に格段の差があります。メジャーなプラットフォームの一角を使えるメリットは計り知れません。
また、ベテラン、若手関係なく、自由に企画について議論する習慣があるのもいいことですね。アイデアや企画を部内の打ち合わせや会議などに出して、そこで、みんなの意見を聞いて練り上げるのです。転職した当初は、若手がベテランに、あまりにも率直な意見を述べるので、ちょっと驚きましたね。また、転職者が多いので、各自編集メソッドについて一家言持っている「編集オタク」的なところがあって、企画についてだけではなく、編集技法自体の議論もよくします。
中村いろいろな編集者がいるから、会議で出てくる企画もバリエーションに富んでいて、刺激を受けます。「ダイヤモンド社=ビジネス書」というイメージでしたが、「子育て」「健康」「料理」といったジャンルでもベストセラーが出ています。料理書などはオールカラーでコストもかかるのですが、上限の範囲であれば、コストは自由裁量です。他の出版社では本の制作コストがすごく厳密に決められているので、編集者の裁量が大きいと感じています。
三浦コストだけでなく、定価や部数についても編集者の意見は尊重されます。営業部門に「この定価と部数で行きたいのですが」と伝え、お互いでしっかりと話し合って決定するというプロセスですね。

副編集長
中村私がすごいと思ったのは「ベストセラーを追わない風土」であることです。柳の下には何匹かドジョウがいるので、どこかでベストセラーが出たら、「すぐその著者に連絡して、なんでもいいから書いてもらえ」というのが一般的です。ところが、ダイヤモンド社は絶対にそれをしない。むしろ、同じ著者や同じテーマで企画を出そうものなら、なぜ敢えてその著者なのか、そのテーマなのか、と徹底的に上司や周囲から聞かれます。よほど新味のある切り口でもない限り、おいそれと二番煎じの企画は出せません。
それより、新しい著者を発掘して、その処女作を出すことや、先ほども言ったように新しいテーマやジャンルの開拓にとても熱心です。私の上司も、まだそれほど有名ではなかった、勝間和代さんのベストセラー『効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法』を担当してから、次々とヒット書籍の著者を発掘しています。
── では、宣伝と書店営業の側のお話をお聞かせください。まず新刊の売り方について、どういう点が他社と違うと自負されていますか。宣伝プロモーション部長の松井さん、いかがでしょう。

宣伝プロモーション部
部長
松井ここ十年ほどで、書籍のジャンルも拡大し、信頼してくださる書店さんもさらに増えてきました。数多くのベストセラーを出していますが、定型のメソッドがあるわけではありません。一冊一冊に、どれだけ踏み込めるかが勝負だと思っています。一冊一冊、その本の内容を営業部門でよく理解、吟味して、持っている売上データと付き合わせ、その書籍に最適の宣伝方法、書店への提案方法を含めた施策を緻密に考えて実行しています。
新刊は、企画から営業部門が編集部門と一緒に会議を持つというのが大きな強みです。企画の初期段階でまず意見交換し、その本の企画が詰められて、章立てやカバー、発売日が決まった状態で、書店営業部員全員の前で、編集者が本の勘所についてプレゼンをするのです。ですから営業部員は全ての新刊について、作った編集者から直接、内容の詳細にわたる豊富な情報を得て営業に臨めるのです。
営業部門はそのコンテンツに習熟するとともに、数字の裏付けにも自信を持っています。私達はいつも5種類ほどの売上データを見て、セグメント分析や売上についての仮説検証をしています。書店には決して「お願い営業」はしません。根拠なく大きな部数を提案することもしません。書店営業部員は売り場で、現場の生の声を聞き、自分の担当書店の過去の売上げデータを細かく分析して、その特徴を細かく把握しています。ある分野の新刊を出すとき、どの店舗にどのくらい入れるのが最適なのか、書店さんに説得力を持って説明し、提案できるのです。
── いまは書籍編集部に所属している吉田さんですが、以前は営業部で活躍していました。書店営業について教えてもらえますか。

吉田書店営業部はエリア担当、チェーン店の法人営業の担当を持っています。担当書店については、過去にどの本がどういうタイミングで売れたかというデータに基づき、それを新刊の配本や、既刊本の掘り起こしなどに積極的に活用します。過去のデータに照らした提案は、書店さんにもメリットが大きく喜ばれます。
信頼関係がしっかり構築できていたので、私は提案した部数を一度も断られたことがありませんでした。皆さん、「ダイヤモンド社ほど細かくデータを見てくれている出版社はない。言われた部数は全部入れます」と言ってくださいました。書店さんの担当者が変わった際に「前任者から、吉田さんの提案は全部売上げにつながった。言われたことは全面的に信用するようにと言われています」と言ってもらえたこともあります。
女性実用や児童書などの新しいジャンルも、編集者の実績やコンテンツのクオリティを部員が根気よく説明し続けたことで、いまでは「ビジネス書だけではない、多様なジャンルのダイヤモンド社」と認知していただいていると思います。
三浦初版時からいいところに置いてもらえるのもありがたいのですが、初動が出たときの展開も頼もしいです。本ごとに向いたお店を考えて提案してくれるので、重版から一気に火がつくことも多いです。
松井ダイヤモンド社の持つブランド力、一点一点のコンテンツのクオリティ、そしてこれまで提案した部数が書店さんの売上げにつながってきたという実績から来る信用、それらが好循環しています。もちろん、データから仮説検証して打った施策が失敗することもありますが、それらもすべて、反省材料にして、次回に活かします。
── 既刊本の売り伸ばしについてはいかがですか。
松井新刊への取り組みと並行して、もう一点、効果が上がっていると自負していることがあります。それは重版のタイミングと部数の判断を的確にして、売り逃しを防ぐということです。実はダイヤモンド社は他社に比べて、重版率が高いんですよ。
三浦そして重版のタイミングが早いですね。実質、3~4日程度の初動を見て最初の重版を決めてしまう。広告やパブリシティが出始めるタイミングで、追加分がきっちり店頭に届くようになっている。
松井過去の売上データから、ここで宣伝を打てば、このエリア、この店舗、あるいはアマゾンではこのくらい売上部数がはね上がるだろうという予測のもとに、絶対に売り逃しのないように緻密に部数と重版のタイミングを計算しています。
中村他社のベストセラーでは、書評などでせっかく紹介されているのに、在庫切れで買えないことがよくありますが、ダイヤモンド社ではその辺りを営業部門がよくコントロールしていますね。
三浦営業部門の担当者が緻密なデータをもとに話をしてくれるので、「この本にはもっとポテンシャルがあるはずなのに、どうしてもっと売ってくれないんだろう……」というもやもやとしたフラストレーションが湧きにくいです。
重版でもうひとつ驚いたことがあります。やはり営業の担当者が「このデータに基づいたこれこれのロジックで、これだけ重版をかけますが、いいですか」と編集者に許可を求めにくるんです。重版の根拠の説明が明快で、フェアで、説得力がある。「お願いします」というほかないんです。重版が失敗すると、編集者の評価に影響するため、許可を取るということなのですが、そもそも編集者に「これだけの部数を重版してもいいですか」と毎回聞いてくれるというのは他社ではほとんどないように思います。
松井厳密なデータをもとにした、重版の意志決定のフェアネス、透明性についても自信を持っています。なんとなく売れそうだからとか、この編集者とは親しいから情実で重版をかけるなどということはもちろん皆無です。
何十万部というベストセラーを出すことも大切ですが、私達は初版6000部の本をどう、2万部、3万部に育てるかということにも腐心しています。
吉田それぞれの営業部員が担当書店の売上を日々確認しているので、どの初版部数の本であっても、わずかな動きを見落とさずに全体に共有することができます。そのようなチームとしての連携も、書籍を育てることに繋がっていると思います。
松井大きな宣伝もせず、何面も積んだわけでもない書店で少し動きがよかったので、似たタイプの売上げ傾向の書店に置いてもらったら結果が出て、さらに別の書店にも提案して、という形で売上げを伸ばす例も多いですね。
いずれにせよ、年間総発行点数をいたずらに増やさず、編集者がクオリティの高い書籍を作ることと、その情報をきちんと営業部門で共有すること、そして売り逃しを徹底的に防ぐため、データ上の小さな動きも見逃さないようにして、データをもとに提案して、結果を出して、さらにそれを広げていくという形ができていると自負しています。

── どんな人にダイヤモンド社に入ってきてほしいですか。
三浦好奇心のある人。自分ならではのおもしろさを発見できる人、いろいろなことを面白がれる人、人に会うのが好きな人はダイヤモンド社での本作りに向いています。
中村書籍編集は、ある著者から、その人の人生のドラマを引き出して紹介したり、その著者が一生かけて追究しているテーマのエッセンスを分けてもらって一冊の本にする仕事です。その意味で、人が好き、人と会うのが好きな人が向いているし、そういう人に来てほしいですね。
吉田書店営業も書籍編集も、ダイヤモンド社はやりたいことを全力で応援してくれる環境があります。だからこそ、自分で「やってみたい」を考えることが好きな人が向いていると思います。
松井一言でいうと「汗をかける人」ですね。現在、営業も編集も、いろいろなしくみがうまく回って、とても仕事がしやすい状況にあります。でも、そこに憧れて来るだけでなく、恵まれた環境に甘んじず、新しい発想で、出版社の仕事の可能性を一緒に広げていける人に来てほしいです。新しいことをやれる環境と、その挑戦を一緒に形にできる社員がみなさんを待っています。

編集長




副編集長




室長 兼
宣伝プロモーション部
部長



